この話の主人公は洪敏成(ホンミンソン)と彼のパートナーとなるパクです。
プラチナ・ビーズなどのサイドストーリー的な位置に、この本はあります。
洪は韓国日報の特派員という表の顔と韓国国家情報部の情報部員という裏の顔を持っています。このあたりは葉山とよく似ているわけですが、葉山はあくまでもアナリストであるのに対して、洪はれっきとした情報部員。彼は与えられた情報から分析を行うのでなく、自分から情報を探している―このあたりが大きくちがうところですね。
この洪という人物はプラチナ・ビーズにもスリー・アゲーツにも登場します。出番は多くはないにしても、葉山との持ちつ持たれつという微妙な関係が伺えるのですが、この夢の中の魚でもそれは同様です-というより、もっとはっきり描かれているといってもいいかな?お互い、その人となりについては思うところがあっても、その仕事ぶりは信頼しているという感じが伝わってきます。
さて、この「夢の中の魚」はオムニバス形式で話がすすめられていきます。
冒頭に金大中韓国大統領の就任のあいさつが書かれ、話の根底には「日韓漁業協定」がある。しかし、この話のメイン・テーマは洪とパクの絆といっていいでしょう。
話は全部で9編。
少年Ⅰ
プロローグ的な内容です。海ばかりを見つめて暮らしている孤独な高校生の少年。
日系三世の在日韓国人である彼の未来がどんなものであるのか?
GAILA
『GAILA-東京壊滅-』この怪獣映画には、とんでもないものが映っていた。怪獣オタクの大学生の悲喜劇を絡ませながら、洪とパクの仕事ぶりが初お目見えします。ちなみに、このとんでもないものが映っていたことを洪に情報提供するのが、葉山です。この二人の会話はすっごくおかしい。
For the girl
鹿嶋の海岸で奇妙な拾い物をした少年。宇宙人のピアスと名づけたその金属片を高校で所属している《宇宙パワー研究会》の展示品として、文化祭に出展した。洪は自分のデスクに山積みされている新聞や雑誌の中にまぎれていた、たった1枚の地方都市の高校生のイベントちらしに興味を引かれ、それを見に出かけた。それは一体何だったのか?
洪の先輩情報部員呉道とその義理の息子比佐志がちらっと出てきますが、それは次への伏線でした。
ナミエ
パクが働いている場所は新宿歌舞伎町のピンサロ。その向かいには同じ経営者のもつファッションヘルスがある。ナミエはそこで働く韓国人。見るからに陰気な女で、絶えず身体に傷を作っている。傷を作っているのは、ナミエのヒモのヒロシ。ある日、ヒロシはナミエの店でトラブルを起こし、ボコボコに殴られていた。それをナミエは文字通り身体を張って止めようとしていたのだが、偶然居合わせた洪は、その姿に何か事情を感じ…。
ここに眠る
ある日、洪がパクから引き合わされたパクの昔の恩人保永。彼もまた在日韓国人だった。彼の父親は第2次世界大戦で中国へ出兵し、そのまま帰ってこなかった。保永の老いた母親は死ぬ前になんとかその形見だけでも手元に戻してほしいということを熱望していた。
洪はこの願いをかなえる傍らで、一人の代議士の卵-名取裕一郎-を知る。
ロメオ
名取裕一郎の婚約者、三宅里沙子は年下の青年-比佐志-に恋をしていた。それが仕組まれたものだとも知らずに。
一方、洪は仕事をこなすにつれて、すべてにおいて無関心なパクの姿に物足りなさも感じ始めていた。さらに進んだ関係になるためには、ある程度手のうちをさらすことが必要になる。洪はパクに対し、選択を求めたのだが…。
腐りかけた林檎の木
ある日、とある町のパン屋さんから韓国日報に「うちの店を取り上げてくれ」という手紙が舞い込む。その手紙に興味を覚えた洪はそのパン屋さんに会いに行く。手紙を出した背景を知り、それを調べていくうちに洪はある事実にたどり着いた。洪をして、本気で腹を立てさせた事実-それは何だったのか。
夢の中
水産庁の官僚がファッションヘルスの女の子に真剣になったら…?パクが洪のために初めて進んで情報を提供した、このささいな出来事は洪にとっては非常に重大な意味を持つものだった。
洪とパクとの出会いの裏話が書かれたこの話の締めくくりは、日韓漁業協定が締結したということだった。この協定は韓国側にとっては、満足いくものではなかった。だが、この漁業問題はこれで終わりというものではない。洪が行っていることは、今以上に将来を見据えてのものであった。
少年Ⅱ
少年が東京へ出るまでの心情が書かれています。「ひょっとしたら、自分を必要とし、待っている誰かがいるということだってある」こう考える少年の気持ちは痛いです。痛いですが、ここまで読み進めていくと、それがかなえられたことを知ることができるでしょう。
洪も国を愛し、国のために自分を生かしている男だということがよくわかります。
タイトルにつけられた魚は、漁業協定のことであると同時に、魚にたとえられた洪であり、パクであり、その他の人々なわけです。将来、自分の国に有益になるように、洪はさまざまな餌をまき多くの魚を泳がしておく。情報部員の戦いというものが、この話の中から読み取ることができます。
そんな孤独な、神経をすり減らすであろう戦いの中で、洪がパートナーとして選んだパク。この二人の姿が特筆です。
1つ1つの話の中に、先の話の伏線があります。プラチナ・ビーズでもスリー・アゲーツでもそうですが、のめりこむように読ませるのは、この構成力によるものなんでしょうね。
プラチナ・ビーズなどのサイドストーリー的な位置に、この本はあります。
洪は韓国日報の特派員という表の顔と韓国国家情報部の情報部員という裏の顔を持っています。このあたりは葉山とよく似ているわけですが、葉山はあくまでもアナリストであるのに対して、洪はれっきとした情報部員。彼は与えられた情報から分析を行うのでなく、自分から情報を探している―このあたりが大きくちがうところですね。
この洪という人物はプラチナ・ビーズにもスリー・アゲーツにも登場します。出番は多くはないにしても、葉山との持ちつ持たれつという微妙な関係が伺えるのですが、この夢の中の魚でもそれは同様です-というより、もっとはっきり描かれているといってもいいかな?お互い、その人となりについては思うところがあっても、その仕事ぶりは信頼しているという感じが伝わってきます。
さて、この「夢の中の魚」はオムニバス形式で話がすすめられていきます。
冒頭に金大中韓国大統領の就任のあいさつが書かれ、話の根底には「日韓漁業協定」がある。しかし、この話のメイン・テーマは洪とパクの絆といっていいでしょう。
話は全部で9編。
少年Ⅰ
プロローグ的な内容です。海ばかりを見つめて暮らしている孤独な高校生の少年。
日系三世の在日韓国人である彼の未来がどんなものであるのか?
GAILA
『GAILA-東京壊滅-』この怪獣映画には、とんでもないものが映っていた。怪獣オタクの大学生の悲喜劇を絡ませながら、洪とパクの仕事ぶりが初お目見えします。ちなみに、このとんでもないものが映っていたことを洪に情報提供するのが、葉山です。この二人の会話はすっごくおかしい。
For the girl
鹿嶋の海岸で奇妙な拾い物をした少年。宇宙人のピアスと名づけたその金属片を高校で所属している《宇宙パワー研究会》の展示品として、文化祭に出展した。洪は自分のデスクに山積みされている新聞や雑誌の中にまぎれていた、たった1枚の地方都市の高校生のイベントちらしに興味を引かれ、それを見に出かけた。それは一体何だったのか?
洪の先輩情報部員呉道とその義理の息子比佐志がちらっと出てきますが、それは次への伏線でした。
ナミエ
パクが働いている場所は新宿歌舞伎町のピンサロ。その向かいには同じ経営者のもつファッションヘルスがある。ナミエはそこで働く韓国人。見るからに陰気な女で、絶えず身体に傷を作っている。傷を作っているのは、ナミエのヒモのヒロシ。ある日、ヒロシはナミエの店でトラブルを起こし、ボコボコに殴られていた。それをナミエは文字通り身体を張って止めようとしていたのだが、偶然居合わせた洪は、その姿に何か事情を感じ…。
ここに眠る
ある日、洪がパクから引き合わされたパクの昔の恩人保永。彼もまた在日韓国人だった。彼の父親は第2次世界大戦で中国へ出兵し、そのまま帰ってこなかった。保永の老いた母親は死ぬ前になんとかその形見だけでも手元に戻してほしいということを熱望していた。
洪はこの願いをかなえる傍らで、一人の代議士の卵-名取裕一郎-を知る。
ロメオ
名取裕一郎の婚約者、三宅里沙子は年下の青年-比佐志-に恋をしていた。それが仕組まれたものだとも知らずに。
一方、洪は仕事をこなすにつれて、すべてにおいて無関心なパクの姿に物足りなさも感じ始めていた。さらに進んだ関係になるためには、ある程度手のうちをさらすことが必要になる。洪はパクに対し、選択を求めたのだが…。
腐りかけた林檎の木
ある日、とある町のパン屋さんから韓国日報に「うちの店を取り上げてくれ」という手紙が舞い込む。その手紙に興味を覚えた洪はそのパン屋さんに会いに行く。手紙を出した背景を知り、それを調べていくうちに洪はある事実にたどり着いた。洪をして、本気で腹を立てさせた事実-それは何だったのか。
夢の中
水産庁の官僚がファッションヘルスの女の子に真剣になったら…?パクが洪のために初めて進んで情報を提供した、このささいな出来事は洪にとっては非常に重大な意味を持つものだった。
洪とパクとの出会いの裏話が書かれたこの話の締めくくりは、日韓漁業協定が締結したということだった。この協定は韓国側にとっては、満足いくものではなかった。だが、この漁業問題はこれで終わりというものではない。洪が行っていることは、今以上に将来を見据えてのものであった。
少年Ⅱ
少年が東京へ出るまでの心情が書かれています。「ひょっとしたら、自分を必要とし、待っている誰かがいるということだってある」こう考える少年の気持ちは痛いです。痛いですが、ここまで読み進めていくと、それがかなえられたことを知ることができるでしょう。
洪も国を愛し、国のために自分を生かしている男だということがよくわかります。
タイトルにつけられた魚は、漁業協定のことであると同時に、魚にたとえられた洪であり、パクであり、その他の人々なわけです。将来、自分の国に有益になるように、洪はさまざまな餌をまき多くの魚を泳がしておく。情報部員の戦いというものが、この話の中から読み取ることができます。
そんな孤独な、神経をすり減らすであろう戦いの中で、洪がパートナーとして選んだパク。この二人の姿が特筆です。
1つ1つの話の中に、先の話の伏線があります。プラチナ・ビーズでもスリー・アゲーツでもそうですが、のめりこむように読ませるのは、この構成力によるものなんでしょうね。