若さが悲しい・・・こんな思いで涙が止まらなかったラストです。
この小説はいわゆる倒叙推理小説です。だから、最初から犯人もその犯行方法もすべて読者はわかっている。
推理小説は推理することに楽しみがあるという方には、だからこの手の推理小説は向かないかもしれません。でも、犯行に至る、また、犯行後の心の動き、犯人の心情という部分を読みたいと思われる方にはうってつけの小説ではないでしょうか?

主人公櫛森秀一は由比ガ浜高校の2年生。頭が切れて、でも勉強一本槍というわけでもない。その毒舌っぷりはなかなかにユニークな、魅力的な人物です。
そんな彼が殺人を犯したのはなぜか?

どんな理由があろうと人を殺してはいけない。人を殺した人間はそれに相当する罰を受ける。これは当たり前のことです。このルールが守られなければ、秩序ある社会など保たれるわけないのだから。
でも・・・でも、どうしても殺すしかなかったという切羽詰った思い、これは確かにあるでしょう。―そこに描かれる人間模様に惹かれて、私は推理小説を読み続けているのですが―この櫛森秀一少年の動機というのは、まさにそれだった。
自分のために―という部分ももちろんあったでしょう。でも、彼の行動の背景にあったのは常に『母と妹』の存在でした。ゆえに悲しいラストが待っていたともいえるのですが。

櫛森秀一は、ホントに頭がいい。冷静で度胸もある。しかし、やっぱり子どもなんですよね。必死すぎて・・・。彼は『自分が母や妹を守らなければ・・・』という思いに捕らわれている。これは当然のことなんでしょうが、だから待つことができなかった。そして、深く相談できる大人がいなかった。弁護士さんに頼っても、真の意味での救いにはならないわけだし。
何よりも彼は『自分で解決できる』と思い込んでしまっていた。そこが『悲しすぎる若さ』なんですよね。
確かに完全犯罪に近いものを考え出すことができた。そして実行して成功した。
それは、ほんのちょっとの偶然から、全てが無に帰してしまうことになったけど、それでも彼が考えたことはかなり完成度の高いものだったことはまちがいない。
でも犯罪が成功しても、彼の待ち望んでいたような平穏な心を取り戻すことはできなかったのです。それはことをなす前には考えても見なかった『罪の意識』のせい。彼は自分で自分を壊し始めてたようにも思います。
この殺人を犯してからの櫛森秀一の心情表現にはぐいぐい引き込まれていきます。
そして切なくなっていきます。

もう少し待つことができれば―
もっと親身になって相談できる大人がそばにいれば―
何より、母や妹を守ると考えずに、共に生き抜く道を一緒に考えていこうという姿勢を取れれば―

全ては切れすぎる頭脳をもっていたがため、このような方法をとる前に自分の力だけで動けてしまった秀一の不幸だと思うのです。

その秀一をひたすら見守る少女、紀子。彼女はどんな思いを抱えてこれから生きていくのでしょうか?こんな鮮やかな少年の姿を忘れることは絶対できっこないから。

とにかく読んで損はない感動作です。
これまた、ラストまで一気に行きたくて寝る暇を惜しんだ本ですね。-よくあることだけど(^。^)

この作品は映画化もされました。・・・見てないけど。