この小説は「小説宝石」2000年11月号~2001年8月号に連載されたものを大幅加筆修正したものであることをまず最初に明記しておきましょう。
つまりこの小説が書かれた時には「アメリカの無差別テロ」も起きていなければ、テロ対策特別法案も成立していないのです。自衛隊はPKO活動に派遣されても、自衛隊員を守るため以外に銃を使うことは許されていなかった、そういうわけです。

前置きが長くなってしまったけど、この小説はまたまたすごぉく考えさせられました。
戦争は反対です。殺し合いに解決策はないと思っています。戦場へ誰も送りたくないです。
その気もちは今でも同じですが、今の平和が何を元に成り立っているのか-ということをもっと真剣に考えなければならないなと思いました。
冒頭に1993年カンボジアでのPKO活動に参加したある自衛隊員の慟哭が書かれています。この思いはどういう形で結実していったのか―。

五條小説の魅力のひとつに『愛すべき登場人物』というものが挙げられるのですが、ここでもまた愛すべき人物が続々登場します。
まずは『三津谷雪人』。彼が主役でしょう。年齢は32歳ってところでしょうか。彼の所属する関東電子機器は防衛庁納入機器の開発部署をもっています。彼はその中でも主に今後の兵器開発の中心になるであろう電子戦機材の開発に力を注いでいます。そして、この小説の別の意味での主役『最先端の電子戦機器―グッピー』の生みの親ともいえる存在です。だからこそ、その『グッピー』が海に沈んだ時、同時に行方をくらました同僚の探索に奔走する羽目になったのですが。右目の下に泣きぼくろをもち、名前の通り、非常にピュアな人物。
次は『宇佐美寿男』。防衛庁総隊司令部運用課勤務。電子戦関連担当。階級は二佐で『グッピー』実験班の班長を務めています。仕事に熱心になるあまり家庭をおろそかにしてしまい、現在バツイチ。姿形の描写からも『ミスター自衛官』と言ってもいいでしょう(私が勝手に言ってるだけ(^。^))。
三津谷とは電子戦機材に関する官民合同研修会で知り合い、意気投合。で、とっても仲良し。
非常に切れ者なんですが、ロマンチストな面もあるんですね~。彼をして「汚したくない」と言わしめた三津谷。この二人の関係が非常によいです♪でもって、私、この人好き(^。^)
ラストは『江崎洋』。洋と書いてヒロと読む。しかし、その行動を見るにつけ、ロの文字をモに代えたらどうだって思ってしまいます(^。^)小松ではすっかり三津谷の部屋を自分の宿にしています。
在日米軍のオトシゴで、生まれは横須賀、今は沖縄在住。軍や自衛隊に対する執着(負の方向だけど)は並々ならぬものがあり、その結果、軍に関わる情報をつかみ(おもに色仕掛けで)、それを売って小金を稼ぐという生活を送っています。そんな江崎がひょんなことで知った機密『グッピー』。金になりそうだと沖縄から小松までやってきたのだが―。ハーフでしなやかな褐色の身体の持ち主。三津谷は江崎を見ては、夭折した俳優M氏を思い出しています。おへその周りにはへびの刺青があります。

この小説の帯には『日本海で起きていることを我々は知らなさすぎる』とあります。
ホントにその通りでしょう。
この本が出版されたのは12月20日なのですが、その翌々日12月22日には奄美大島沖で『不審船』が出現しました。停船命令に従わなかったため威嚇射撃をし、結局不審船は沈没したわけなのですが。この後、防衛庁は『防衛大綱』見直しにあたり、沿岸・重要施設警備や早期警戒態勢の強化を重点項目にしました。これは事実です。
しかし、この事実に恐ろしいほど符合しているのがこの小説のラストに書かれているのです。フィクションでありながら、ぐいぐい迫ってくるのはこういう理由からでしょうね。

何もせずに平和が得られるのならば、現状のままでいいでしょう。しかし、確かに時代は変化しています。真に平和な国にするにはどうしたらいいのでしょうか?今の日本の平和は砂上の楼閣にも思えてくる今日この頃です。
この小説でラストに犯人(?)の取った行動は、三津谷同様納得のできるものではないでしょう。しかし、そういう行動を取った行動原理がリアルに迫ってきます。
夢のために泥をかぶる覚悟を決めた男たちの姿を、ぜひ読んでみてほしいです。

150ページくらいまではとろとろ読んでいたけど、そこら辺りからは寝る間を惜しんでの一気読みでしたね~。