祥伝社文庫15周年記念特別書き下ろしシリーズの中の1冊です。中編小説の愉しみ~という謳い文句がこのシリーズについていますが、長編ぞろいの五條作品の中では拍子抜けするような短さです。(いや、夢の中の魚は短編集だから、そうともいえないか-でも、あの話はそれぞれがリンクしているからなぁ)
ご本人がある講演会でこの小説について『20年くらい前のこてこてのハードボイルドを目指した』とおっしゃってます。私は20年くらい前のハードボイルドシリーズってあまり詳しくないのでよく分からないんですけど、今風のハードボイルドって言ってもいいんじゃないのかな?

主人公は桜庭。とある法律事務所のサポートをしている調査事務所を開いている。そこでの主な仕事は『失踪者の調査』。そしてそこに、とある冬の日に現れた依頼人、それは昔の恋人・成美だった。
「キャバクラに勤める愛人とともに、会社の金を持ち逃げした夫を探して欲しい」
気乗りしないながらも、その調査に乗り出す桜庭。そこで出会った不思議な美少女・キリエ。
失踪した成美の夫の柿沢、その愛人である江美(彼女はキリエの先輩で同じキャバクラに勤めていた)この構図が桜庭の調査で、別の意味合いを示すことが浮かび上がってきて…。

この話の中では柿沢という人物は、人の口を通してしか現れてきません。そして、女性の目から見た柿沢と男性の目から見た柿沢のちがうこと。でも、それゆえにこの人の人物像がよりリアルに浮かび上がってきます。
女にとって「優しすぎて、不器用な人」というのは、支えてあげなくては-と思ってしまうんでしょうね。(自分も女なのに何言ってんだか(^0^)でも、わかりますね。確かに)
ゆえに男としては桜庭の方が断然カッコいいと思うんだけど、あくまでも柿沢を追う成美の気もちもわからないでもないです。自分が同じような行動をとるかは別だけど。

しかし、この小説は中心人物よりも脇役が光ってます!
特に桜庭の事務所とアコーディオンカーテンでのみ仕切って、別の事務所を構えている檜林。この人がいい味出してます。そしてサイボーグ美少女・キリエ。

さくさくっと読めます。ただ、他の作品とは幾分カラーが違うので、そのことを念頭において読まれるといいでしょう。