ここに書き込むのは、本当に久しぶりです。3年ぶり?まぁ、他にもブログ作ってるんだから、ここが放置されてしまっていたのも仕方ないですか・・・(^_^;)
でも、そのブランクを越えて、ちょっと感想を書きたくなる本に出会いました。
その名も『隠蔽捜査』。
もともと今野敏さんの本は好きで、STのシリーズも全部読んでるんですが、これも警察ものです。
以下、本文抜粋も含めて、かなりネタばれをしています。


主人公は東大卒のキャリア官僚竜崎伸也。警察庁長官官房総務課長という立場で、順調に出世街道を歩いている。

東大以外に価値を認めず、息子が有名私立大学に合格しても、東大に入らせるために浪人させる。
それでいて、娘の進学には口を出さず、どこでもいい、大学を出たら結婚するのだから…ぐらいにしか思っていない。
家庭のことは妻の仕事で、自分の仕事は国家の治安を守ることだ-と心底思っている。


これだけ読むと、本当にやなヤツだと思います。事実、読み始めの頃はこの竜崎が東大卒であることを自慢にしている傲慢な官僚にしか思えなかったわけです。その竜崎と対照的な伊丹という警視庁刑事部長を務める、幼馴染(私大卒の同期キャリア…竜崎は伊丹に小学校時代いじめられていたと思い込んでいる)という存在を知るにつれ、よりその色は鮮明になっていくわけです。


ところが、そうではないということが竜崎の公私にわたって起こった事件を通してわかっていくわけです。

東大卒に価値があるのは、そのキャリアをもっていればできることが格段にちがうということを身をもって知っているから、東大に行くことが大事であると思っていること。
自分の仕事は国家の治安を守ることであるということを、私利私欲なしに信じきっていること。

つまり、国家を守るため警察に勤め、自分にできることを増やすために東大卒であることを利用しているというわけです。出世も自分のためではない。権限が増え、やりがいが増えるから出世したいわけです。まぁ、それも自分のためと言えばその通りですが。

そんな竜崎だからこそ、周りからは変人扱いされます。しかし、この竜崎がじきに裏表のない、極めて真っ正直な人間だと分かってくるわけです。


2つの事件に対する対応のしかたは最も正しいけれど、最も勇気のいるものでした。わかってはいるけど、なかなかできるものでない。事実、竜崎も悩む。そして、伊丹もどんどん変容していく。


『正義感』が、現実社会では諸刃の剣になってしまっている昨今。正義を行うことが難しくなっていることは事実だと思います。が、『正義は勝つ』社会でなければ、大きなしっぺ返しが来るのは必然。今さまざまなジャンルで、不正義や不正直なことをしたばっかりに大きな問題が起こり、社会問題になっています。
1つの不正を隠すために、さらに別の隠し事をしなければならなくなり、それが次々と連鎖し、最後にはのっぴきならないところに追い込まれる。

竜崎と伊丹の会話を抜粋します。
「大人の判断だって?それは臭い物に蓋という古くて役立たずの官僚主義のことだ。今必要なのは、保身のための方便じゃない。どうしたら被害が最小限で抑えられるかという正しい危機管理なんだ」
「危機管理・・・?」
「そうだ。まさしく、警察全体の危機なんだ。判断を誤ったら誰も助からない」
               ~略~
「何かの工作をすると、それが暴露されそうになったときに、また新たな工作が必要になる。その新たな工作は、最初の工作よりもエネルギーが必要なんだ。そして、それが次々と連鎖して、しまいにはとてつもない大問題に発展してしまうわけだ。そんなとき、人は思うんだ。ああ、最初に本当のことを言っておけばよかったとな・・・」
「だから、政治が必要なんだ。政治の世界は秘密と謀略に満ちている。世界のどこの国でもそうだ。なぜかわかるか?清廉潔白なだけでは世界は動かないからだ。力も必要だし汚い駆け引きも必要だ」
「清廉潔白かどうかなど、俺は問題にしていない。あくまでも危機管理の問題だと言っている。一番ダメージが少ない方法で今回の事件を切り抜けるんだ」


一番ダメージが少ない方法とは、一番うその少ない方法なのですよね。当たり前のことだけど、つい保身に走ると余計なことをしてしまう・・・。

想像以上にさわやかな読後感の得られる小説でした。